DDR5の表記が示している5つの情報
DDR5メモリの製品名は、容量、枚数構成、データレート、CL値、ランクの5つを1行に圧縮したものである。32GB(16GB×2) DDR5-6000 CL30 1Rx8という表記なら、合計32GBを16GBのモジュール2枚で構成し、1秒あたり6000メガ転送で動作し、CL値は30、ランクは1、DRAMチップ1個あたりのデータ幅は8bit、と読む。ここを読めれば、店頭の型番だけで自分の環境に合うかどうかの大半は判断できる。
容量と枚数構成は分けて考える
合計容量と枚数構成は別の判断軸である。同じ32GBでも、16GB×2と8GB×4では動作条件が変わる。デスクトップ向けCPUのメモリコントローラは2チャネル構成が基本なので、帯域を使い切るには最低2枚が必要になる。DDR5では1枚のDIMMが内部で32bitのサブチャネル2つに分かれているが、これはCPU側の2チャネルとは別の話で、1枚挿しでは帯域が半分に留まる点は変わらない。
買い増しは避けたい。あとから同じ型番を1組追加しても、製造時期が違えば搭載チップやSPD情報が変わり、定格クロックで起動しないことがある。最初から必要な容量を1セットで買うのが最も確実である。
データレートとCL値の関係
DDR5-6000の6000はデータレート(MT/s)で、1秒あたりの転送回数を示す。CL値(CASレイテンシ)は、読み出し要求を受けてからデータが出てくるまでの待ちクロック数である。CL値は単位がクロック数なので、クロックが速いほど1クロックの時間は短くなる。数値そのものを比べても意味がなく、時間に直して比較する。計算式は 実効レイテンシ(ns) = CL × 2000 ÷ データレート である。
| 表記 | 実効レイテンシ |
|---|---|
| DDR5-5600 CL36 | 約12.9ns |
| DDR5-6000 CL36 | 12.0ns |
| DDR5-6000 CL30 | 10.0ns |
| DDR5-6400 CL32 | 10.0ns |
DDR5-5600 CL36とDDR5-6000 CL30を比べると、CL値の差以上に実効レイテンシの差が開く。CL値だけを見て高い方を避ける判断は誤りになりやすい。
ランクは動作クロックに効く
ランクは、モジュール上のDRAMチップが構成する64bit幅のグループ数である。1R(シングルランク)は1組、2R(デュアルランク)は2組を持つ。2Rはメモリコントローラから見た負荷が大きく、同じ枚数でも到達できるクロックが下がりやすい。一方で、ランク間の切り替えによって帯域効率がわずかに上がる面もある。高クロックで安定させたいなら1R×2枚、容量を優先するなら2Rを許容する、という整理でよい。大容量モジュール(1枚32GB以上)は2Rであることが多い。
マザーボードとCPUの対応を確認する
まずQVLを見る
QVL(Qualified Vendor List)は、マザーボードメーカーが自社製品で動作を確認したメモリの一覧である。マザーボードの公式サポートページから、製品名とCPU世代を指定して閲覧できる。QVLに載っていないメモリが動かないわけではないが、載っている製品はメーカーが実機で検証している分、トラブル時の切り分けが楽になる。特に定格を超える高クロック品を狙うなら、QVLを確認してから買う価値がある。
スロット数と枚数でクロックが変わる
ここが最も見落とされやすい。多くのマザーボードは4スロットを持つが、4本すべてを埋めると対応クロックが大きく下がる。信号がスロットを数珠つなぎに通る配線(デイジーチェーン)が主流で、モジュールが増えるほど信号品質が落ちるためである。メーカーの仕様表には「2枚時は最大〇〇、4枚時は最大〇〇」といった形で別々に記載されている。購入前に必ず両方の数字を見ておく。
2枚で使う場合、挿す位置は決まっている。多くの製品ではCPUから遠い側から2番目と4番目(A2/B2と表記されることが多い)が指定されている。ここは製品ごとに異なるので、マザーボードのマニュアルの該当箇所を確認する。間違ったスロットに挿すと、シングルチャネル動作になったり、そもそも起動しなかったりする。
CPU側のメモリコントローラにも上限がある
メモリが高クロックに対応していても、CPU内蔵のメモリコントローラが追いつかなければ意味がない。CPU側では、メモリの動作クロックとコントローラの動作クロックの比率が性能に影響する。等倍で動く範囲を超えると分周がかかり、クロックを上げたのにレイテンシが悪化して総合的には遅くなる、という逆転が起きる。この「等倍で回る上限」はCPU世代ごとに異なるので、自分が使うCPUについて、メーカーの公式仕様と実測レビューの両方を確認してから狙うクロックを決める。執筆時点の情報は世代交代で変わるため、購入直前に最新の仕様を必ず確認してほしい。
XMPとEXPOは同じ仕組みの別ブランド
DDR5メモリは、電源を入れた直後はJEDEC(規格団体)が定めた定格で動く。DDR5-6000と書かれた製品でも、初期状態ではDDR5-4800やDDR5-5600といった定格で起動する。これは不良ではなく仕様である。表記どおりのクロックで動かすには、モジュールのSPDチップに保存されたオーバークロック用のプロファイルを読み込ませる必要がある。
そのプロファイルの規格名が、Intel向けのXMP(Extreme Memory Profile)とAMD向けのEXPO(EXtended Profiles for Overclocking)である。役割は同じで、クロック、各種タイミング、電圧の組み合わせをまとめて適用する。両方のプロファイルを収録した製品も多い。IntelプラットフォームでEXPOのみの製品を使う(またはその逆)場合、プロファイルが読めず定格動作に留まることがあるため、自分のCPUに合う方が入っているかを商品情報で確認する。
有効化はBIOS(UEFI)から行う。電源投入直後にDeleteキーまたはF2キーを連打してBIOSに入り、XMPまたはEXPOの項目を探してProfile 1を選び、保存して再起動する。多くのマザーボードではトップ画面に項目が出ている。適用後はOS上のツールでクロックが目標値になっているかを確認する。
クロックとレイテンシのどちらを優先するか
用途で決める。ゲーム、特にフレームレートがCPU側で頭打ちになる場面では、レイテンシの短さが効きやすい。同価格帯なら、クロックを1段落としてCL値の低い製品を選ぶ判断に分がある。動画エンコード、3Dレンダリング、大きなデータの読み書きといった帯域を食う処理では、クロックの高さが素直に効く。
ただし、どちらの効果もCPUやGPUの差に比べれば小さい。予算が限られているなら、メモリの高クロック品に上乗せするより、CPUやGPUのグレード、あるいは容量を増やす方に回した方が体感差は大きい。まず、CPUが等倍で回せる範囲の中で、実効レイテンシが短い製品を選ぶ。これが最も外れの少ない基準である。
ヒートシンクの高さは先に測る
物理干渉は組み立て当日に発覚すると詰む。ヒートシンクのないDDR5モジュールの高さは約31mmで、これがJEDECの標準寸法である。装飾的なヒートシンクやLEDを載せた製品は40mmから50mm程度まで伸びる。
空冷CPUクーラーの仕様表には「メモリクリアランス」または「メモリ高さ制限」という項目がある。この数値より背の高いモジュールは、クーラーのファンと当たって装着できない。ファンを上にずらせば逃げられる場合もあるが、その分クーラー全体の高さが増し、今度はPCケースのサイドパネルと干渉する。
簡易水冷(AIO)を使う場合、CPU周辺の干渉は起きにくい。ただしラジエーターをケース上部に取り付けると、ラジエーターとファンの厚みがメモリスロットの真上に降りてくる構成があり、背の高いモジュールが入らないことがある。迷ったらヒートシンクの低い製品を選ぶ。冷却性能の差が問題になるのは、常用クロックを大きく超える設定を狙うときだけである。
起動しない・クロックが出ないときの切り分け
メモリ関連のトラブルは、上から順に試せば原因を絞り込める。
1. まず待つ
XMPやEXPOを有効化した直後の初回起動では、CPUがメモリの最適な設定を探る「メモリトレーニング」が走る。この間、画面は真っ暗のまま、ファンだけが回る状態が数十秒から数分続くことがある。特にモジュールの枚数が多いときや、高クロックを狙ったときに長くなる。ここで電源を切ってしまう人が多いが、初回は最低でも5分は待つ。何度か再起動を繰り返してから起動することも正常な挙動である。
2. 1枚挿しに戻す
起動しないなら、メモリを1枚だけにして、マニュアルが指定するスロット(多くはA2)に挿す。これで起動すれば、モジュール単体は生きている。次に、同じスロットで残りのモジュールを1枚ずつ試すと、特定のモジュールの不良か判別できる。1枚では起動するのに2枚だと起動しない場合は、スロット位置か、設定クロックが高すぎるかのどちらかである。
3. スロット位置と挿し込みを確認する
DDR5のDIMMは挿し込みに相応の力が要る。両端のラッチがカチッと閉じ、モジュール上面が左右で水平になっているかを目視する。片側が浮いていると起動しない。基板を反らせない範囲で、両端を交互に押し込む。
4. 設定を定格に戻す
XMPやEXPOを切って定格で起動するなら、メモリ自体は正常で、狙ったクロックがその環境で通らないだけである。1段下のプロファイルを選ぶか、手動でクロックを1段下げる。それでも安定しない場合、4枚挿しなら2枚に減らして確認する。
5. CMOSクリアとBIOS更新
BIOSに入れないほど起動しないときは、CMOSクリアで設定を初期化する。マザーボードのClear CMOSボタン、またはジャンパピンの短絡、それもなければ電源ケーブルを抜いてボタン電池を数分外す。設定は工場出荷状態に戻る。
新しいCPU世代や新しいメモリでは、BIOSのバージョンが古いと対応クロックが出ない、あるいは起動しないことがある。マザーボードメーカーの公式サポートページでリリースノートを確認し、メモリ互換性の改善が記載されていれば更新する。更新中の電源断は基板を壊すので、作業中は他の操作をしない。
買う前に確認する順番
判断の順序を決めておくと迷わない。最初にCPUとマザーボードを確定し、そのマザーボードの仕様表で「2枚挿し時の対応クロック」を読む。次に、使うCPU世代がメモリコントローラを等倍で回せる上限を調べ、その範囲に収まるクロックを目標にする。目標クロックの中で実効レイテンシが短い製品を、必要な容量の2枚組で選ぶ。最後に、その製品のヒートシンク高さがCPUクーラーのメモリクリアランス以内かを確認する。ここまで通れば、組んだあとに困る要素はほぼ残らない。
クロックや容量の相場、対応状況は世代交代のたびに動く。ここで示した数値の具体例は執筆時点のものとして扱い、実際の購入時にはマザーボードとCPUの公式仕様ページ、およびQVLを必ず確認してほしい。